踊れ回れ狂い咲け、忍(鉢→雷前提くくはちネタです)
遠くの方で、音が聞えた。
弾かれた様に音のする方角へ視線を向けて、気付けば私は駆け出していた。
(全く、約束よりも遅いじゃあないか)
口の端を歪ませて、思わずにやりと笑みが零れる。
次いでゾクリと、肌を滑る快感。
否、興奮から来る心の震えというべきか。
なんにせよ、とても気分がいい。
(あれで兵助も戦では優秀だからな、そうそう失敗などしないさ。・・・まぁ遅かったが)
二人で組めと命を受けてから、 失敗はないだろうと確信していた。
久々知兵助組するろ組は優秀な忍たまが多く、 鉢屋三郎組するは組はそれから比べると少しだけ出来が悪かった。
けれどそんなは組の鉢屋三郎も、実戦経験ではろ組の忍たまに引けを取らない。
むしろ、ろ組ではない方が不思議な程、彼は戦術に長けていた。
変装・武術・体力・知力、全てにおいて教師陣からも一目置かれる程なのだ。
(あー・・・早く帰って雷蔵に会いたい)
鳥達の鳴き声に紛れて笛の音が響く。
途切れる事無く綺麗に続くその音は、帰還の意を籠め奏でられる音。
途中で何度か罠を見付けたが、命に関わる程の物では無さそうだったので、面倒だしそのまま無視を決め込んだ。
少しだけ乱れた笛の音に、思わず苦笑してより一層足を速める。
聞える音が段々と近付いて、森の出口が見えてきた。
(と言うか・・・鳴らしすぎだろう、あの馬鹿)
風を切って森を抜けると、そこには久々知兵助が笛を口に加えて立っていた。
「おお三郎、さすがだなー早い!」
「この阿呆!ぴーぴーとうるせえ、一度鳴らしゃわかんだろ!」
身体に付いた土や葉を叩き落として溜息を付く。
笛を吹いた本人は悪びれもせず真顔で両の手を叩き合わせて鉢屋を出迎えた。
何となくそんな久々知の様子が面白くなくて、がしがしと頭を掻いて乱暴に笛を奪い取る。
「いやー、早く来なきゃ見つかるぞという脅しのつもりだったんだ」
「兵助お前な・・・殴るぞ本気で」
「そうしたらやり返すぞ、私だって」
「あー・・・あーあ、くそっ、お前のせいだぞ阿呆助め!」
今度はわざとらしく大きな溜息を付いて、ギロリと久々知を睨み付ける。
依然久々知は飄々としていて、目が合うとにこりと笑顔を向けてきた。反省をするつもりは無いらしい。
急いで来てはみたものの、あれだけ音を鳴らしていれば自分以外が寄らない筈もない。
要するに、他の忍ぶ者達に囲まれてしまったのだ。
「えー私か?」
「えーじゃない!鳴らしっぱなしで目付けられない訳な・・・」
そこで三郎ははたと気付く。
五年生ともなれば合戦に何度も参加しているし、どうする事が忍にとって大切なのかも嫌と言う程教わってきた。
隣の久々知に視線をくれると、先程とは違うにやりとした笑みが返された。
「兵助お前・・・わざとだな」
さぁ?と楽しそうに笑う久々知に覚えてろと舌打ちをし、学園で待つ大切な友の顔を思い出す。
ふわりと花の様に笑い、気をつけてと送り出してくれた旧友達。
生物委員会に属する友人も笑っていたような気もするが、思い出されるのは三郎が勝手に顔を拝借している不破雷蔵、その人ばかりだ。
(ああ雷蔵、記憶の中の笑顔も可愛いな・・・。全く、早く君に会いたいのに)
くそったれと、叫ぶと同時に背後の森へ身を向けた。
面倒事は嫌いだが、先程から向けられる視線はどれも殺気立っていて、恐らく逃がしてはくれないだろう。
ならばこの場でどうにかするしかないのだ。
「まぁ、後々追われるよりはいいだろ」
「はははは兵助君?鳴らし続けたお前が言うな?そろそろ本当に殴るぞ?」
「そうしたら私もやり返すって」
このままでは埒があかないと思い、一つ提案を持ちかける。
「兵助」
「なんだ?」
「賭けをしよう、どちらが多く倒せるか。但し殺生は無しだ」
「ああ、勝った方が相手の夕飯のおかず一品貰うのはどうだ?」
「お〜いいだろう、時に兵助、今日のメニューは田楽豆腐らしいな」
「うん、知ってる」
やっぱりか!と思ったものの、口には出さずに黙っておいた。
恐らく久々知は知っていてわざとこうなる様に仕向けたのだ。
「・・・兵助、お前たまに性格悪いよ」
「は?何言うんだいきなり」
軽く首を鳴らして、短く息を吐く。
殺気は益々強くなり、森へ踏み込めばすぐに仕掛けてきそうだ。
「豆腐に関して特に酷いな」
「ああ、いや、今日のは長く三郎と一緒に居たかっただけで豆腐は関係ない」
駆け出そうと意気込んで、失敗に終わる。
じゃあお先にと肩を叩かれ後ろ姿を見送った。
告げられた言葉に動揺し、思わず一歩遅れを取ってしまった。
顔が熱い。
「そーゆー所が性格悪いんだっての、天然め・・・!」
恥ずかしさで削がれた戦意を奮い立たせ、何としても負けないと心に誓い、鉢屋も森の中へ飛び込んだ。
************
本日の十忍十色でちょろっと配ったネタです
なんかもうすっげぇええ楽しかったです爆発するかと思った!
チケット恵んでくれた友人達、構ってくれた友人達本当に有難う御座いました!
中々日記も更新出来なくてしょんぼりです;;
ううう早く17期感想日記書きたい!